京都未踏の作り方:法人設立編

首藤 一幸
2026年 10月 12日(月・祝)


どの法人?

経産省AKATSUKIの補助事業を実施できるのは「民間事業者等であり、法人格を有する者」 (募集要項より) です。 どの法人で実施するのかを決めねばなりません。 私の立場で考えられる方針は次の3つでした。

AKATSUKIもある種の教育事業ですし、一見、京都大学での実施が素直であるように見えます。 過去には、山口大学が採択されて実施した際、補助金で埋まらない持ち出し分が大学の損失になって、トラブルになったと聞きます。 しかしそこは、持ち出し想定額の資金を学内に用意しておけば、話を通せるのではないかと思います(甘い?)。

大学での実施には、受け取った寄附金に課税されないという一定のメリットがあります。 支援者が寄附金という形でお金をくださった場合、翌年以降に向けて残せた資金に課税されません。 しかし京都大学での実施には大きな問題がありました。 クリエータにお金を渡す方法がありません。 クリエータが京大生だった場合、お金を渡す方法にはTA、RA、RFなどいくつかありますが、例えばRA (Research Assistant) だと、作業場所や毎週の時間帯を決める必要があり、出勤が必要です。 場所・時間自由という条件で支払える気はしませんでした。 AKATSUKIのために支払いの規程を制定する手もありますが、かなりの労力と数ヶ月の時間がかかります。 やってられません。

既存の法人に頼むとしたら、その理由は、1年間運営する際の支出を立て替えてもらうためです。 経産省から支払われる補助金は後払いなので、まずは自己資金で実施する必要があります。 しかし、既存の法人への御願いは気乗りしませんでした。 一定のマージンを取られることは確実です。 福岡未踏 (ウェブサイト) の場合、2025年度までは九州大学TLOである(株)産学連携機構九州がAKATSUKI補助事業の実施機関であり、補助金が支払われるまでの支出を立て替えていました。 立て替える法人には、支出をかぶることになってしまうという危険があります。 補助金は後払いなので、会計ミスをすると支払われないことがあるのです。 なので、立て替えは皆あまりやりたくありません。 やりたくないことをやるので、当然、マージンを取ります。 産学連携機構九州が取っていた金額はおそらく常識的な範囲ですが、それでも、なかなか…と感じました。 別のどなたかによると、どこがやっても立て替え金額の2~3割は取るのでは?との見立てでした。

マージンの話はAKATSUKIをやることを決めた直後に聞いていて、既存法人という方針は早々に捨てていました。 マージン以外にも、本質的ではないステークホルダを増やしたくありませんでしたし、どうせすでに協賛金・寄附金集めを始めていたという理由もあります。

では、自分で作るか、という方向で検討を進めました。

法人の種類

法人設立といえば、私はずっと以前から、首藤研究室を支える株式会社を作りたいと考えていました。 1つの夢でした。 法人は箱に過ぎないので、作ったところで何が起きるわけでもありませんが、ともあれ、ウタゴエ社で挫折した 2008年以来の夢でした。 この目的と、京都未踏のための法人を兼ねてしまえるのではないか?と考えたのも、自然なことです。 しかしこれに対しては、複数の方々からやめておけというアドバイスを頂くことになります。 ある方からは、株式会社への協賛金・寄附金を依頼しても、理由を教えてくれることもなく断られるだけだ、と言われました。 いろいろ理由は考えられますが、株式の譲渡によって法人の支配権が誰に移ってしまうかわからない、という理由は説得力があります。 他にも、自治体の方から支援検討の際に、株式会社でも可能だけど… (一般社団法人の方がベター) とほのめかされていました。

2025年12月5日(金)、自治体の方も交えた相談にて、いろいろあって、設立する法人は一般社団法人とすることを決めたのでした。 一般社団法人の場合、こうした選択肢があります。

その後、1月にかけていろいろ検討し、どうせ一般社団法人と決めたのだから最大限外部から信用を頂くために「非営利型」「理事会設置」にする、と決めました。

2026年度は、AKATSUKI 補助事業者として27社が採択されました。 その内訳は、株式会社17社、一般社団法人9社、公益財団法人1社です。 株式会社が大勢を占めます。 一瞬、なんだ株式会社でもAKATSUKIできるではないか、と思わないでもありません。 実際、ETSUZAN (ウェブサイト) はSocialups(株)等が運営していますが、東北電力がスポンサーに付いています。 おそらく、Socialups社の中で帳簿を厳密に分けていて、また、これまでの活動ゆえの信頼があるのだと察します。 実績のないところから設立して協賛・寄附を集めることを考えると、一般社団法人の方が有利なのでしょう。

一般社団法人の設立

司法書士

AKATSUKIをやっている一般社団法人新雪 (ウェブサイト) は、なんと、北大 坂本先生が自身で申請して設立したのだそうです。 福岡未踏のための一般社団法人雷 (IKAZUCHI) も、九大 荒川先生が (設立キットを使って?) 自身で申請したと聞いています。

私にはとにかく時間がなかったので、お金で解決しました。 つまり、司法書士に依頼しました。 京大で近所の先生が一般社団法人を運営しているので、設立時に依頼した事務所を教えてもらい、私もそこに依頼しました。 支払った報酬は10万円(税別)です。 役所に支払った費用と合わせて、21万4千円ほどでした。 首藤が立て替え払いしましたが、法人が支払うこととし、後日精算しました。

設立に向けては、理事・監事の住民票や設立時社員の押印が必要だったりするので、行きやすい司法書士事務所を選んでおくのがよさそうです。

定款

一般社団法人(や株式会社)を設立するには、法人の根本規則である定款を用意する必要があります。 テンプレートは存在しますが、以下は各法人でしっかり考えて決めなければなりません。

名称は、他の法人を参考にしつつも、とにかく自分(達)で決める他ありません。 目的は、一般社団法人新雪のものを多いに参考にさせて頂きました。 公告の方法は、事前に用意しておいたAWS S3上ウェブサイトとしました。 事業年度を何月から何月とするかは、悩みました。 4月とするのが普通ではありますが、それでは、1~2月に設立するのに3月にもう1期目が終わってしまい、いきなり決算などの作業をせねばなりません。 京都未踏それ自体が始まるタイミングと、法人のための作業が重なるというのも、初心者の我々には過度な負担になりそうです。 悩んだ結果、京都未踏の業務が比較的落ち着いていそうな10月を決算月と決めました。 これが正解だったかどうかは、一度通り抜けてみないことにはわかりません。

社員と役員

設立時社員は2名必要です。 首藤の他は、松岡さんに御願いしました。

非営利型一般社団法人には理事が3人必要です。 また、理事会設置の場合、監事も必要です。 合計4人、首藤に加えて3人の役員が要ります。 理事は、京都にいらっしゃって、京都未踏に長くコミットして頂けそうな(PMも依頼していた)平井先生と松岡さんに御願いしました。 監事は、まだ京都にいらっしゃった松下さん(4月からは東大)に御願いしました。

設立時社員は設立時社員の決定書に押印します。 役員(理事と監事)は就任承諾書に押印しますし、住民票の提出が要ります。 という感じで、ちょこちょこと手間をおかけすることになります。

役員にはむしろ、設立後こそ、理事会に出席するという負担が生じます。 例えば、AKATSUKIに応募する、といった重大な判断は代表理事1人ではできないので、理事会で決議します。 また、設立したばかりの法人にありがちな規則制定も理事会で決議します。 実際、京都未踏のために設立した一般社団法人京都イノベーターズラボでは、2026年3月から8月にかけて6回理事会を開催しています。

設立時に少し困ったのは、兼業許可の取得です。 平井先生は京産大の職員、首藤と松岡さん、松下さんは京大の職員です。 そうした勤務先から兼業の許可をもらう必要があります。 京産大は随時許可を取れるのですが、京大の我々の場合、教員の会議で審議されるので月に1回しかチャンスがありません。 1回逃すと最長1ヶ月待つことになります。 急ぎの場合は致命傷になりかねません。

発起人および代表理事を務める首藤の場合、さらに多くの手続きが必要でした。 一般社団法人の場合京大では本来必要ないのですが、所属部局の部局長が求めたため、利益相反の審査を受ける必要が生じました。 これもまた、月に1回しかチャンスがありません。 委員会開催日の10日前までにウェブ申告する必要があります。 一般社団法人の場合はありませんが、営利企業の発起人や役員を務める場合は面談も行われます。 利益相反の申告をし、月1回の利益相反審査委員会で審議され、その結果を踏まえて月1回の部局での会議で審議されます。 1ヶ月で済めばラッキーで、会議のタイミングによっては2ヶ月かかります。

晴れて設立

12/23(火)に司法書士事務所に相談のメールを送り、12月末には押印のために事務所へ行き、その後1,2回事務所へ行き、2/12(木)に登記完了の連絡メールを受け取りました。 法人設立の年月日は2/2(月)となっていました。 定款認証を行う公証人から追加の書類を求められる、といった軽微な引っかかりはありましたが、大きなトラブルはなく進んだ結果、1ヶ月半ちょっとで設立まで至りました。


(一社)京都イノベーターズラボの法人番号や主たる事務所の所在地

バーチャルオフィス

法人を設立するにあたっては、住所を登記せねばなりません。 一般社団法人であれば「主たる事務所」、株式会社等であれば「本店」です。 これは公開されます。 ここで自宅の住所を主たる事務所の所在地にしてしまうと、全世界に知られてしまいます。 かといって、戸籍で冗談のように行われているように、皇居の住所(東京都千代田区千代田1-1)を書くというわけにはいきません。 なぜなら、登記した住所には役所からの郵便物が届くからです。 知人・友人がやっている会社の住所を使わせてもらうという手もありますが、そこから郵便物を受け取るというのも大変です。

この需要を満たすために、バーチャルオフィスというサービスがあります。 我々の場合は、京都未踏プラチナスポンサーGMO社のグループ企業によるGMOオフィスサポート一択です。 全国各都市に拠点があって、京都にもあります。 緊急時に郵便物を受け取りに行くことを考えると、近所が安心ではあります。 GMOオフィスサポート京都オフィスの場所は京都駅のあたりで、我々が普段いる京都大学からは少し距離があるのですが、出向く必要は今のところ生じておらず、問題ありません。 転送の頻度に応じた月額料金と、転送のごとに発生する転送料金がかかります。 現在、週1転送プランが2,750円/月、定期転送1回が330円/回~です。

銀行口座

京大で近所の先生の一般社団法人が、税理士の指導に従って3つの銀行口座を使い分けているとのことで、我々も3つ開設することを目指しました。 しかし、我々が契約した顧問税理士によると、1つでいいのでは、とのことで、税理士によって方針は異なるようです。 一般社団法人の場合、会員からの会費など非課税にできる収入があるため、そもそも口座ごと分けておくのが安全、ということではないかと想像しています。

銀行口座の開設には、苦労します。 結果として、一般社団法人京都イノベーターズラボは、次の4つの銀行に口座を開設できています。

京都銀行の通帳 キャッシュカード
銀行口座

開設してみてわかったことは、どの銀行も実際に事業を行っていることを示す書類の提出を求める、ということです。 会社や事業のパンフだけでは済まず、振り込みの証拠や、その手前の(押印された)契約書などが要ります。 振り込みしてもらうために口座が要るのに、お金が動く or 動いている証拠を求められるので、鶏と卵という感があります。 口座開設、とくに法人によるそれに対する厳しい審査は、金融機関に課せられているマネーロンダリング対策(AMLってやつですね)です。 我々の場合は、あるスポンサーから押印された協賛申込書を頂いて、それを事業の証拠として提出しました。 我々が作成した本来の協賛申込書には、協賛金を振り込んで頂く口座の情報も書くのですが、口座がない状態で提出して頂くために、仕方なく「GMOあおぞらネット銀行(0310)に開設される銀行口座」などと書きました。 押印済み協賛申込書を提出し、それで晴れて、口座を開設できました。

かねてから京都未踏についてある種のご協力を内諾して下さっていたある金融機関様からは、開設お断りの結果を頂きました。 これには驚いたのですが、どうも、「登記の場所」が影響したようです。 バーチャルオフィスというだけで口座開設させないのかもしれません。

会計ソフト・税理士

その道の専門家でもない我々にとって、会計ソフトは必須に思われます。 マネーフォワード社がスポンサーなので、マネーフォワード一択です。 ただ、そうでなくとも選んだと思います。 (少しだけ)使ってみて驚くのは、登録した銀行口座の状況をまとめて見せてくれたり、入金・出金がどういった類なのかを自動的に仕分けてくれることです。 会計ソフトなら当たり前なのでしょうが、初めて知ると驚きます。

税理士との顧問契約も、我々の取り組みの性質上、必須に思われました。 スモールビジネスを始めるだけならともかく、我々は国からの補助金を受給します。 ここで会計・税務をミスるわけにはいきません。 また、寄附金を頂けたなら、非課税の収入も発生し、税務はより複雑になります。 税理士というものはたまに来訪して指導してくださるようなので、なるべく近所の方がよさそうです。 また、我々が使う会計ソフト、つまりはマネーフォワードに慣れていることも大事そうです。 「マネーフォワード 税理士」でウェブ検索すると、マネーフォワード社が地域の税理士を紹介しています。 これはいい。 というわけで、近所の弁理士をリストアップして、費用を調べ、メールで問い合わせました。 京大で近所の先生の一般社団法人が依頼している先の税理士事務所にも問い合わせたのですが、メールに返答を頂けませんでした。 お伺いしやすい場所で、費用もリーズナブルに思われた事務所に、契約を前提とした相談開始を御願いして、ほどなく訪問して相談し、よさそうなので契約しました。

とてもありがたいのは、以下の点です。 今どき当たり前でしょうか。

来訪の頻度ははっきりとは決めていませんが、1,2ヶ月に一度程度、対面でお世話になりたいことが生じたら御願いしています。

役所・税務署への申告

法人を設立すると、役所・税務署に対して設立したことを申告せねばなりません。 これについては省きます。